
年1回のストレスチェック、自社できちんと運用できているでしょうか。「制度は導入しているが、形式的になっている」——中小企業の人事・総務担当者の方からよく聞く声です。労働安全衛生法第66条の10が求める実務の要点を、現場で使える形に整理します。
ストレスチェック制度の基本的な枠組み
制度の目的と法的根拠
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に定められています。目的は2点です。①労働者自身がストレス状況を認識し、自ら対処できるよう支援すること。②事業者がその結果を職場環境の改善につなげること。
制度の核心は、高ストレスと判定された労働者が希望した場合に、医師による面接指導を実施する点にあります。面接指導の結果は、就業上の措置に活用します。
実施が求められる事業場の規模
現行の制度では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、年1回以上のストレスチェック実施が求められています(労働安全衛生法第66条の10第1項)。常時50人未満の事業場は、同項に基づき実施に努めることが前提です。
令和7年(2025年)5月の労働安全衛生法改正により、常時50人未満の事業場への義務付けが決定しました。公布から3年以内(2028年頃)に施行予定です。早めに実施体制を整えておくことを推奨します。自社の事業場規模に応じた対応状況を、今一度確認しておきましょう。
実施体制の整備
実施者・実施事務従事者の役割
ストレスチェックを実施するうえで、まず「実施者」と「実施事務従事者」の役割を明確にしましょう。
実施者は、医師、保健師、または一定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士が担います(労働安全衛生規則第52条の10第1項)。調査票の選定や高ストレス者の判定基準の設定など、制度の中核を担うのがこの役割です。
実施事務従事者は、調査票の配布・回収、データ入力など実務を担当します。ただし、人事権を持つ管理監督者は実施事務従事者になれません(労働安全衛生規則第52条の10第3項)。労働者が不利益を恐れて正直に回答できなくなる事態を防ぐための規定です。
外部機関の活用
中小企業では、社内に産業医や保健師が常駐していないケースが多くあります。外部の実施機関(産業保健サービス機関、健康保険組合、EAP機関など)への委託が、現実的な選択肢と言えます。
外部委託を行う場合でも、制度運営の責任は事業者にあります。委託先を選ぶ際は、守秘義務の取り扱い・個人情報の管理体制・委託契約の内容——この3点を必ず書面で確認してください。
実施手順と結果の取り扱い
調査票の選定
厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目版)」は、仕事のストレス要因・ストレス反応・周囲のサポートの3領域を測定します。独自の調査票を使う場合は、実施者が内容の妥当性を事前に確認することが前提です。
結果の取り扱いと守秘義務
ストレスチェックの結果は、受検した労働者本人に直接通知されます(労働安全衛生法第66条の10第2項)。事業者は、労働者の同意なく結果を把握できません。
実施者および実施事務従事者には守秘義務が課されており(労働安全衛生法第104条)、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らした場合は刑事罰の対象となります。情報管理の仕組みを整えてこそ、制度は機能すると言えます。
高ストレス者への面接指導
高ストレスと判定された労働者が面接指導を希望した場合、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条の10第3項)。面接指導の申し出があった日から1か月以内が目安です(労働安全衛生規則第52条の16)。
面接指導の結果をもとに、医師から就業上の措置に関する意見を聴取し、必要に応じて業務内容や勤務時間を調整します。面接指導を受けたことを理由とした不利益取扱いは、労働安全衛生法第66条の10第9項が明確に禁じています。
集団分析と職場環境改善への活用
集団分析で「職場全体」を可視化する
ストレスチェックの結果は、個人のメンタルヘルス支援だけに使うのはもったいない表現です。職場単位の集団分析に活用することで、組織全体の改善につなげられます。
部署ごとのストレス傾向を把握し、高ストレス者の割合が高い部署では、業務量・裁量度・サポート体制の見直しを検討しましょう。事業者は集団分析の結果を職場環境改善に活用するよう努めることが求められています(労働安全衛生法第66条の10第8項)。
集団分析の実施単位に注意
5人未満の集団で分析すると、個人が特定されるリスクがあります。一定規模以上の集団を単位とすることが原則です。残念ながら、この点を見落としたまま運用されている職場は少なくありません。
ストレスチェック制度の実務対応について詳しくお知りになりたい方、外部委託の検討をお考えの担当者の方は、ぜひこちらをご参照ください。制度の本来の目的——早期発見と職場改善——に立ち返るきっかけにしていただければ幸いです。
→ ストレスチェック支援サービス|394864.jp
以下のサービスもご参照ください。
→ 事務所案内・コンサルティングサービス|394864.jp
執筆:岡田 誠一(メンタルヘルス・休職・復職支援)
※本記事の内容は、令和8年4月4日現在における下記の資料に基づいたものです。最新の法令・通達等をご確認ください。
・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
・労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)
・厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
・厚生労働省「ストレスチェック制度の適切な実施の推進に向けた対応について」